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珍コレクション物語

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某氏より『別冊週刊サンケイ』(産業経済新聞社、一九六〇年二月一日)を頂戴した。「新春雑談」として洲之内徹の「珍コレクション物語ーマニアはマニアでもこればかりはー」という文章が掲載されている。後藤洋明編「洲之内徹文献目録」(『気まぐれ美術館—洲之内徹と日本の近代美術ー』展目録、朝日新聞社、一九九七年)には載っていない。

内容は洲之内が編集長となった雑誌『これくしょん』(一九五八年)が創刊号だけで潰れたという話から、横山隆一のガラクタ・コレクションと高松吉太郎の電車絵ハガキ、武田雪夫のかかし収集について述べた後、山本発次郎の思い出をつづっている。それは『絵のなかの散歩』(新潮社、一九七三年)に収められている「山発さんの思い出」のプロトタイプとなるようなものだ。

山本発次郎は佐伯祐三のコレクションで知られるコレクターだった。慈雲や良寛らの書も集めていた。《芦屋の大商人で、なんとかいう白髪染の製造元でもあったときいている》。

《戦災で収集品の半ばを失った山発さんが、戦後、三度目の米山収集のために、松山に来たとき、私はその町でしるこ屋をやっていた。そして、たまたま土地の新聞に、展覧会評を書いた私の文章が山発さんの目にとまって、米山収集に協力を求められた。》

米山は松山の神官で書をよくした三輪田米山。山本発次郎の発掘によって再評価されるようになったという。
三輪田米山『書と拓』展
三輪田米山の石文を歩く

《私は書のことなどは全然わからないから、むろん固辞したが、としよりの金持などというものはわがままで、ひとの都合など意に介さないものらしく、毎日、宿にしていた正宗寺(正岡子規の墓がある)からタクシーでやってきて、店先から私を拉し去る。》

このへんのことは「山発さんの思い出」に詳しく書かれているが、つぎのくだりは省かれたようだ。

《正宗寺の庫裡の、山発さんの部屋は、買ってきた米山や、土地の骨董屋の持ち込んだ米山でいっぱいになっていた。壁にも襖にも米山が掛けてあり、米山の屏風がたてならべてあった。痩身長躯の山発さんが、まんなかで眼をむいて坐っている。山発さんの買い方を見ると、金に糸目をつけないというのとはちがう。相当に叩く。鑑識眼では段ちがいだから歯が立たない。田舎の骨董屋に甘い汁は吸わせない。》

そして山本発次郎は松山をすっかり気に入って、自分のコレクションを松山市が美術館を作ってくれればそこへ移したいと言い出すのだ。二人は場所まで下見に行った。それが実現しなかったことはどちらのエッセイにも書かれている。

《なにしろ松山の町の大半がまだバラック建ちの頃で、到底話にならなかった。あのとき県か市がその気になっていたら、松山にも、倉敷の大原美術館に匹敵する美術館ができていたろうと思うと残念である》(「山発さんの思い出」)

《もし松山市会なり、愛媛県会なりが予算を組めば、その計画は実現していただろう。山発さんのコレクションの中には有名なモジリアニの裸婦の名作などもある。福島コレクションから出たもので、あれひとつだけでいまの相場で一億円くらいはするだろう》(「珍コレクション物語」)

ここで洲之内徹が一億円と書いたモディリアニは「髪をほどいた横たわる裸婦」のこと。ずっと後に大阪市立近代美術館建設準備室が約19億3000万円で購入した。むろん佐伯祐三のコレクションもここに入っている。つくづく松山市は惜しいことをしたが、大阪市の美術館の方も準備中のままもう何年になるのだろう。山発さんあの世で歯噛みしているだろうか。
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by sumus_co | 2010-04-09 21:27 | 古書日録
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