林蘊蓄斎の文画な日々
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築添正生さんのこと

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去る二十四日、扉野良人氏よりファックスが入っていた。留守中だったため取り出したのは二十九日である。

《昨夜、築添正生さんが亡くなられました。林さんと一緒に訪ねた書斎に変らない姿で眠っておられました。起きる時刻にはまだ早いようでした。今晩、通夜、明日2時より葬儀になります。私に読経をとおっしゃっていたそうで、とまどいながら受けました。バットを供えてきます。》

「林さんと一緒に訪ねた書斎」というのは大津の平津にあったご自宅兼アトリエのこと。日記を探してみると、二〇〇三年三月一三日にお邪魔している。

《11:00すぎに昼食をとり、三条のBOOKOFFへ。太宰治全集の端本の中に「正義と微笑」「右大臣実朝」が入っている巻あり。資料として購入。12:30に1Fの入口で扉野と合流。地下鉄から京阪に二度乗り換えてようやく石山駅、バスに乗って15分くらい平津というバス停で降り、途中まで築添さんが迎えに来てくれる。古い村だが新しい住宅がどんどん建っている。10分ほど歩いて斜面のところに奥まって木造アトリエが建っている。奥さんのはたおり機などが入ったところにあり、次に四畳半の書斎、奥に彫金の仕事場。

おつまみにビールが出て、古本の話、ユリイカの伊達が前田出版で出した童話集、とか山口晋平のエッセイ集、中原中也の思い出、安原と中也が家にたずねて来て、ビールを出したら、次の日も来て、その次の日もやって来た……というような話。「白痴群」の同人と仲間だった人。

お父さん宛の戦前のハガキなど箱一杯。近代社の辻潤全集一、二巻二冊(昭29)、など珍しいものいろいろ。内田百間の新書や文庫も集めておられる。窓の下に白梅が満開。高清水というお酒が出て、鍋料理になる。奥さん娘さんとも飲むので冬は鍋ばかりらしい。ハクサイとシイタケ、ビーフン、とり骨付、ぶたバラだけ、そこに味はつけず、皿にとって天然塩と一味を好みで加える。なかなかいい。ちょっとビーフンが多すぎたが。

19:30ころに引上げる。家が多いわりには道が暗い。バスが出たところだったのでタクシーで石山駅まで。1,350。ここで扉野氏と別れてJRで帰る。》

「お父さん宛の戦前のハガキ」と書いてあるが、祖父・奥村博史の義兄である宇和川通喩宛の絵葉書も多数含まれていた。それがスムース文庫で二〇〇四年一一月三〇日に刊行した『1914年ヒコーキ野郎のフランス便り バロン滋野と滞欧画家たちの絵葉書より』という形で結実することになる。

初めてお会いしたのが何時だったか、今すぐ思い出せない。ただ『sumus』第九号「特集・あまから洋酒天国」(二〇〇二年五月)に扉野氏経由で「雑誌『月明』のこと」という原稿を頂戴しているので、それ以前は間違いないと思う。このブログでもときどき言及している『虚無思想研究』の大月さん、久保田さんらのお仲間である。

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筆まめな方で葉書をたくさん頂戴している。これは手近のファイルに収めてあった個展案内などごく一部。二〇〇〇年のDMがあるので、その頃にはお近づきをいただいていたようだ。

築添さんのゆったりとした大きな文字が好きだった。上の原稿は『sumus』にいただいたもの。ポートレートは二〇〇〇年二月一五日に京都の河原町二条の河原町画廊で小生が個展を開いたときに会場で撮った。この日の日記には《お祖父さんが絵描きさんだったそうで古いスケッチパネルや絵具箱があるからそうなので、一度見にきてくださいとのこと。築添家は徳島の出身だそうだ。》と書かれている。実際訪ねるのはそれから丸三年後のことになったわけだ。奥村博史と築添さんの関係について何も知らない書き振りだから、まだ知り合って間もないということか。

話は逸れるが、二〇〇三年にも河原町画廊で二度目の個展をした。日記を読んでいると、その最終日、三月十七日、湯川成一さんがお祝いだといって、山本善行氏とともに二条通のホテル・フジタの近くにあるアイリッシュ・パブでごちそうしてくださったことが書き留められていた。ちょうどセントパトリック・デイで店の飾り付けが賑やかだった。湯川さんが山本氏に向って「古本は趣味にしておいたほうがええよ」とたしなめていたことを思い出す。

書斎をお訪ねしてからおよそ半年過ぎた頃、二〇〇三年一〇月二八日付けの築添さんからの葉書にこう書いてある。築添さんの風貌や物腰が髣髴とする名文ではないか。

《先日迅君からハガキでハッパをかけられて、あわてて毎夜絵ハガキの解読を酒を呑みつつやっているところです。読み出せば興趣尽きず酒も手伝って大正時代のパリにおもいを馳せてぼんやりし、又あわてて解読に向っています。

どうも滋野という人からのハガキがもっとも多く、仲の良い画家仲間かとばかりおもっていたのですが、ハガキを読んでみるとさにあらず、飛行家らしく、そういえば確か男爵で欧州大戦の折仏空軍に従軍した滋野という人が居たと雑誌かなにかで読んだ記憶があり、当りをつけて辰野隆の本を読んでいたら「欧州大戦に飛行将校として活躍した日本人S」というのがありました。

この滋野氏の字が比較的読みやすいのを幸い、もっぱら氏のハガキを読み、欧州大戦時の将校の優雅なる生活(モンテカルロで一月以上の休養、や戦中にもかかわらず、あちこちへの旅行・パーティなど)を偲ぶと共に、戦前の兵士達とのあまりの違いを考えさせられます。毎夜細かい字ばかり見ていたらこんなハガキになりました。》

「こんなハガキ」とは、いつもとちがって小さめの文字で表裏にびっしりと認められていることを指すのだろう。御冥福をお祈りします。
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by sumus_co | 2010-04-01 21:31 | 京のお茶漬け
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