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ランボー全詩集

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鈴木創士訳『ランボー全詩集』(河出文庫、二〇一〇年二月二〇日、カバーデザイン=中島浩)。ランボーを訳しておられると聞いていたが、それがついに完成した。昨秋、体調を崩されたのも、この仕事に精魂を傾けておられたからであろう。ジュネといいランボーといい、骨が折れる仕事に果敢に挑戦しておられる姿勢には敬服する。

これだけ有名で研究書も多く、飜訳も新刊で手に入るものだけで何種類もあったりすると、もうオリジナルのランボーなんてどうでもよくなってしまう。そうすると結局は、翻訳家の文体というか、翻訳家その人が好きか嫌いかというところに落ち着くのではないだろうか。土台、ランボーを日本語にするのは無理である。ボードレールよりも飜訳の可能性(妥当性か)は少ないと思う。だからある意味、ランボーを訳すと言いながら、じつのところ訳されたものが「ランボー」なのだ。

小生は「鈴木創士」が好きなので、今後はランボー詩の引用はすべて鈴木創士訳によることとする。

目立つところでは「ある地獄の季節」という訳が新しい。従来の「地獄の季節」に「ある」を付けた。小林秀雄の初訳は「地獄の一季節」。「一」が付いていたが、後に削った。鈴木氏の「ある」に近い考え方である。

《詩人の脳裡にダンテの『神曲』の「地獄」篇(地獄そのものを意味している)のタイトルがよぎらなかったはずはなく、したがってこの場合、ランボーが遍歴したのは、直訳するなら「地獄におけるある季節」(ひとつの季節)という非限定的なものでなければならない。「ひとつの季節」であって、「季節そのもの」ではないのである。「ある地獄の季節」という新訳を採用した所以である。》(改題より)

たしかに原題「Une saison en enfer」の「une」という不定冠詞(英語の a に相当)にはひっかかる。季節は四つしかないわけで(三つの時代もあったようだが)、それぞれはっきり違った性格をもっている。その「季節」にいくらでもあるなかの一つというようにとれる「une」を付けたのは何故なのか。「La saison en enfer」でもまったく問題ないというか、内容からすれば、La(The)としたいところではないだろうか。具体的にはヴェルレーヌとロンドンへ行っていたその期間を指しているに違いないのだから。ま、そこがポエジィということなのかも。

そうすると今度は「季節」という訳でいいのか? そんな疑問も頭をもたげてくる。「saison」の語源はスペイン語の「sazon」などで、それはラテン語の「sationem」(種を播く)からきており、元来の「種を播く時期」の意味から、いつか「シーズン(季節)」に敷衍したという(『リットレ』による)。また「人生の一時期」を指すなどの使用例もあり、なかなか、どの訳語が正解などと言える問題ではなく、どう解釈するか、という問題になってくる。むろんこれはフランス人にとっても同じことだが。

ごちゃごちゃ言わずに日本語として読んで楽しめれば、それ以上のことはない。というか、それしかできないので、鈴木創士の古い革袋に新しい酒をそそいだようなこの新訳、今後ことあるごとに楽しませてもらおうと思う。
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by sumus_co | 2010-02-06 21:20 | おすすめ本棚
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