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街の草

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ピエール・ガスカール『街の草』(篠田浩一郎訳、晶文社、一九六九年九月三〇日、ブックデザイン=平野甲賀)。一昨年、パリの古本屋でこの元本を買って帰った(『L'HERBE DES RUES』Gallimard, 1956)。それを尼崎の街の草の加納さんに上げたところ、お返しにこの晶文社版をくれた。

元本はパリから帰るまでに最初の方だけ読み出してそのままになっていた。邦訳を読んでみると、ちょっと訳が固い感じはしたものの、文体というのか、文の織りなす雰囲気は通じるものがあるように思った。

なんともなしに銀行に入った青年が、仕事に馴染めず、ある日の午後そっと抜け出して、そのまま辞めてしまう。友人たちと暮らし、会社を始めたり、いろいろやって、ついには兵役にとられ、戦地へ向う。一九三三年から、ストライキあり、スペイン内乱があり、政治的な混沌あり、激動の時代を生きる青年たちを「ぼく」の目が淡々と描写している。

《ぼくはボン=ザンファン街に住んでいた。古い街で、その片側全体、陽の当る側には、百貨店に付属する建物やほかの大きな商館が並んでいた。》

《銀行から逃げ出した日、サン=ラザール駅からぼくが足を向けたのはジャン=ジャック=ルソー街の方へだった。》《ジャン=ジャック=ルソー街には、いまではぼくにとって家族の代りになってくれる人たちがぼくを待っていた。》

地図を見ると、パリの中心部である。ルーブル美術館のすぐ北側。

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家族の代わりになってくれるのは年のあまり違わない仲間たちである。彼らもそれぞれあまり裕福でなく、みんな片親がなく、あくせくと働いていた。そのなかに十六歳の、ファンファンと呼ばれる少年がおり、全編にわたって「ぼく」のかたわらにずっとつきまとっている。

ファンファンとは《彼の名のアドルフの誤った愛称で、母親からから彼をあずけられているぼくの仲間たちが子供っぽい二音節にわざと濁音で発音して彼にあたえたものだった》とあるが、今ファンファンの綴りが分からないし濁音というのはどういうことか。

ただふつうにファンファン(ジェラール・フィリップの愛称でもあり、岡田真澄もそう呼ばれた)なら「Fanfan」で、アンファン(enfant 子供)の幼児語。ま、「ぼっちゃん」というところか(?)。肋膜炎で手術を受けるために入院したら、この少年はこんなことを言う。

《しかし、いずれにしても、五十年前のマルセイユの「コンセプシオン」施療院がここよりずっと良かったわけではない……ファンファンは荘重な声になった。《そしておまえは、太陽をあびて歩む……》》

ランボーの臨終の言葉を暗誦したりするガキだった。スペインの義勇兵に志願しようと「ぼく」をさそったり、悪事を働いたり、「ぼく」の結婚に反対したり、ようするにファンファンは文字通り「ぼく」のなかの幼児性、思春期の擬人化のようである。「ぼく」はそんなファンファンをこう説得する。

《人生には段階というものがある、と説明した。ジャン=ジャック=ルソー街、全員に共通の青春、ぼくらの友情があった、しかし二十歳を過ぎては、さまざまの別の道が開かれるのだ。》

ボン=ザンファン街のボン=ザンファンは文字通りには「良き子供たち」(通りの名前は十三世紀に創立された貧しい青年たちのための学校に由来)、そしてジャン=ジャック=ルソーは「エミール」だ。青春からの旅立ち小説。
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by sumus_co | 2010-02-03 22:38 | 古書日録
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