古道具屋のまねごとをしていた時期がある。きっかけはたしか知人の米国人が骨董品を集めるのを手伝うということだった。京都市中の古道具屋や東寺の弘法市や北野天神の天神さんの市などを巡り歩いたり、さらには警察で鑑札(古物商の許可証)をもらって、京都市内にある業者の市場、大澤道具市場や福丸美術道具市場、伏見の市場までのぞいたこともある。
米国人が帰ってからも妻と二人でしばらくまねごとを続けていたが、さすがに本当のプロの世界に入って行くほどの度胸も才覚もなかった。古いものが好きとかどうとか、そういう世界ではない。アマチュアとして楽しむのが性に合っている。
招き猫はデザイナーのヨーガン・レールのコレクションを知ってから気になりはじめた。それらはよくある陶器のまるまるとした猫ではなく、大小さまざまな色絵磁器でできたスラリとした猫である。ところがその手はすでにけっこう高くなっていた。「こりゃだめだ」とすぐに諦めた。
これは天神さんで求めた。あちこち傷んでいるため五百円だったか八百円だったか。高さ十センチほどのセルロイド製である。細かい毛並みまで再現し、腕が胴とは別の造りで細紐を引っ張れば動くようになっている。様式化されていながらもリアリズムを忘れない、この姿に惚れ惚れする。