J.D.SALINGER『The Catcher in the Rye』(PENGUIN BOOKS, 1981)。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のペンギンブックス重版。ペンギンブックス初版は1958。この版ではないが、以前持っていたペーパーバックで読んだ。英語の小説を最後まで英語で読んだのは初めてだったかもしれない。分からないところはすっ飛ばしてではあったが、孤独が染み通るような読後感は残った。
ということで、野崎訳も村上訳も読んでいない。読もうとはしたが、やはり感触が違うのだ。「七人の侍」と「荒野の七人」の違いというか、クレープとお好み焼きの差というか……。最初の感じを大切にしたいということはある。これ別に飜訳でなくて日本語の作品でも同じ。何度も読んで理解が深まる、それもいい。しかし読み返す度に失われるものもある。
下の写真が初版(Little, Brown and Company, Boston, 1951)のジャケット表紙4側。サリンジャーというとこの時期の写真しか使えない、というか写真がないわけだ。永遠に三十代のイメージ。このポートレートを撮ったのはロッテ・ヤコビ(Lotte Jacobi)。ポーランド生まれのユダヤ人。ナチスが台頭する以前のベルリンですでに知られた写真家だった。アメリカへ移住して戦後はアインシュタインなど著名な知識人の肖像を数多く撮っている。
英国版(Hamish Hamilton, 1951)がこちら。かなりイメージが違う。
シグネットブック New American Library, 1953、はこんな感じ。
Compania General Fabril Editora (1961), Buenos Aires, 1961がこちら。ブエノスアイレス、というかスペイン語初訳。タイトルは「隠れた狩人」。『El guardián entre el centeno』という原題にそった訳もあるようだ。それにしてもさすが南半球だからか、イラストの青年は胸をはだけている。英米の寒々しい出で立ちと対照的。ちなみにフランス語訳は『L'Attrape-Coeurs 』(Pocket、2002)、どう訳すのだろう、心をぎゅっとつかむということ?
ところで一九六五年ころからずっと作品も発表せず姿も見せなくなったサリンジャー。隠れた著者になってしまった。ニューハンプシャー西部の小さな町コーニッシュ(Cornish、人口二千人足らず)の邸宅は高い塀に囲まれ、番犬とショットガンで守られていたそうだ。それでもこんな写真を撮られている。ちょっと可哀想というか、哀れかな……。初心を大切にするのもそこそこにしとかないとね。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1246881/Why-did-J-D-Salinger-spend-60-years-hiding-shed-writing-love-notes-teenage-girls.html