『coto』19号(二〇一〇年二月一日)、早いもので連載「古書へんぺん記」も十五回となった(いくつかは『古本屋を怒らせる方法』に収録)。今回は「硝子戸の中の銀の匙」という題で『柳田泉の文学遺産』〜『ラセラス』〜『嶽水会雑誌七十周年記念号』〜『銀の匙』〜『硝子戸の中』について玉突き式に起った事件(というほどどのものではないですが)を綴ってみた。
『coto』そのものは20号で終刊を宣言しているので、余すところあと一回。年内で終り。『彷書月刊』と同じころになるかも。とにかく、よく続いたと言うべきだろう。キトラ文庫安田さんの執念である。雑誌は人ナリ。
キトラ文庫のブログ 古本屋ひまそがし日記 パート2
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『嶽水会雑誌七十周年記念号』(第三高等学校文芸部、一九三九年)は善行堂にて昨年ゲットしたもの。淀野隆三が「思ひ出づるまゝに」と題して三高の学生時代を振り返っている。
《僕達は世間的なものを顧ずに自分と仲間を磨くことをのみ追求した。同人雑誌を出してゐて文壇の人達に贈らぬといつたことを平然とやつてゐた。人の思惑など度外視して、僕達は生真面目な恋愛に苦しみ、動じがたい世間に向つて大それた闘争を挑んだ。梶井や中谷の書くところに、僕達の東京の日の三高は美事に現はれてゐる。特に梶井に於て然り。ーー東京に於て僕達のした青春の定著は総て、嘗ての三高の日々の実現であつたと云へる。》
『spin』連載の淀野隆三日記をひとことでまとめるとこういうことになるらしい。《人の思惑など度外視して》というのは少し誇張があるかもしれないが。
これは草野豹一郎が掲出している古い絵葉書。消印は明治四十一年六月十七日とか。高田義一郎から草野に宛てたもので、三高の運動会らしい。高田は医学博士で作家。草野は大審院判事、法学者、弁護士。時代は少し違うけれど、三高の運動会は京都の市民が大挙して押し寄せる一大イベントだったことが淀野日記から想像される。模擬店などもたくさん出たようだ。