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伝説をたづねて

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藤沢衛彦『趣味の旅 伝説をたづねて』(博文館、一九二七年再版、装幀=池田永治)。博文館のポケット「たづねて」シリーズ。美術をたづねて、民謡をたづねて、名物をたづねて、古社寺をたづねて……。

目次をながめると偶然にも「橘逸勢父子」という項目があったので読んでみた。

《まだほの暗い都の街を、東へ東へと急ぐ輿(こし)、それには、今日、遠い伊豆の国に流される罪人が乗せられてゐた。》

これが橘逸勢だった。その後をついてくる少女がいた。それが逸勢の娘で、役人たちが制止してもきかずについてきた。道中、逸勢は病があつくなり、遠江国板築駅で没した。娘はそこにかりそめの塚を築き尼となって父の墓を守ったという。

《丁度十年の後に、父の昔の罪を許され、都に墓をうつす事がゆるされた。その移された墓は、今も和泉国泉南郡孝子村にある。さて、この孝心のふかい少女は、橘逸勢の女(むすめ)で、尼になつてからは妙仲(めうちう)といつた人であつた。》

「妙仲」とあるが、「妙冲」または「妙沖」のようである。全体的にこの本の記述は甘い感じ。罪人というのも、じつは冤罪だったようだ。ときの仁明天皇の実母・橘嘉智子と藤原良房(仁明天皇の父・嵯峨天皇に信頼され皇女源潔姫を妻とし、自分の妹の順子を仁明天皇の妃とした)が謀って、嵯峨天皇(上皇)の子である恒貞親王を東宮(跡継ぎ)としていたところを、上皇没後、急に仁明天皇と順子の子・道康親王(良房の甥)が立太子されて文徳天皇となる。自分の弟に決まっていたのを母と舅に迫られて息子に継がせることにしたということ。そのドタバタが承和の変(八四二)。ようするに恒貞親王派だった橘逸勢は排除されたわけである。

《都に墓をうつす》とあるが、実際は和泉国(出身地)への帰葬が許された。それが橘嘉智子が没した直後だったことは謀殺説を裏付ける理由のひとつとなっている。

その橘逸勢の怨霊をしずめるため(怨霊になる理由がちゃんとある)、貞観五(八六三)年の神泉苑御霊会では早良親王らと共に慰撫の対象とされ、上御霊神社と下御霊神社に祭られたと伝えられている。下桂御霊神社はその十三年後に創建されているわけだが、どういういきさつがあったのだろうか。

下桂御霊神社があるなら上桂御霊神社もあるかというと、あります。以前住んでいたのが上桂。その秋の祭礼の行列には参加したこともある。下桂にもあったようだが、今ではもう廃れて祭もなく神主も常駐していないという。どおりで境内の塀ぎわにずっと落葉が掃きためられており、猫の集会所のようになっていた。

なぜか自転車を押した老人がやってきて、ビニール袋を取り出すと、塀ぎわに堆く積んである枯葉(クスノキのものと思う)を手でつかんでは詰め込んでいた。いったいどうするのだろう?
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by sumus_co | 2010-01-04 22:30 | 古書日録
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