池元呦鹿庵『側面観 附逆臣之墳墓』(岡崎屋書店、一八九九年一一月二〇日再版)。三百円だったが、これはけっこう珍しい本かもしれない。
呦鹿庵池元半之助。『渓韻松声』( 一八九八年)、『魔言録』(一八九九年)、『新編俳句雄編』(一九〇〇年)、『鳴呼古遊君』(一九〇一年)、『嗚呼古英雄』『英雄僧日蓮』(ともに一九〇八年)、『マホメットの戦争主義』(一九〇三年)、『東株と大相場』(一九一九年)などの著書があるようだが、生没年など伝記的なことは検索しても出てこなかった。『側面観』だけ読むと警世家というような感じはする。「不規則なる生活」より、
《不規則千万なるは、我が社会生活の現況を以つて、最も太だしとなす。[略]然るに東京の夜や、如何。銀座街頭電燈の明滅たるころ、数寄屋橋の屋台店に人影を増し。浅草上野に鉄道馬車の鈴(ベル)絶ゆるころ、山下並に雷門前夜明しの車夫群をなす。紙屑屋、蕎麦屋、新聞配達、按摩針、稲荷酢(ずし)等、街頭橋上殆んど人跡の絶えしことなく、喧々噪々、三更猶ほ且つ半市街を為せるにはあらずや》
これが明治三十二年以前のことだから驚く。東京はすでに不夜城だった。