南陀楼綾繁『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書、二〇〇九年一一月二〇日)が届いた。本好きの間ではすっかり定着した「一箱古本市」だが、その火付け役である南陀楼綾繁氏が現時点までの総まとめを行なったのがこの一冊。巻末に年表まで用意する周到さには脱帽した。
『sumus』を始めた当初、「本を散歩する雑誌」というキャッチコピーを付けていた。本を散歩するのであって、ほんとに散歩するというつもりではなかった(古本屋めぐりは散歩じゃない)。ところが、ほんとに散歩と本をつなげてしまったのが「一箱古本市」である。名古屋でのイベントに参加して思ったが、知らない町を歩く楽しさと本を探す楽しさが倍増ではなく何乗にも増幅する、そんな感じがした。
南陀楼氏がブックストリートを発想するきっかけのひとつがスムース文庫『私の見てきた古本界70年 八木福次郎さん聞書き』(二〇〇四年)で八木さんからすずらん通りに露天の古本屋が出ていたという話を聞いたことだったというのも意外だった。そこから人と地域をつなげて「一箱古本市」という催しを実現させる、かなり難しいように思うのだが、それがやすやすと実現したかのように読めるのも、ある意味、時と場所と人がうまく機能した、そういう巡り合わせがあったに違いない。だからこそ全国に広がっていった。
ケイタイやネットが急速に普及し、それと併行して本が売れなくなる、という推移のなかで、ネットなくして「一箱古本市」は考えられなかった(はるかに困難だった)にちがいない。この点でも時代に波長の合った本とのかかわり方、遊び方であった、あるような気がする。まさしく一箱が寄り集まるように、点の人と点の人が場所や時を選ばずコラボすることができ、面をつくれるという利点が最大限に生かされたのではないだろうか。
本書は一箱古本市にとどまらず、南陀楼氏がタッチしてきた数々のブックイベントが紹介され、オンラインから実店舗へと活動の幅を広げる古書店、あたらしい本の流れブッククロッシング、こだわりの原点フリーペーパーなどにもかなりの紙幅が割かれているし、最終章ではネット時代の読書も手際良く論じられている。
『ミニコミ魂』(晶文社、一九九九)がちょうど十年前だから、この十年間の軌跡にひとつ区切りをつけるマイルストーンというか記念碑的な著作になっているように思う。それが新書で出たところにも意味があろう。