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春のソナチネ小西民子『春のソナチネ』(編集工房ノア、二〇〇九年、装幀=森本良成)。装画は浮田要三氏。『きりん』の編集に関わっておられた方で、具体美術で活躍され、その後も各地で活発な作品発表を続けておられるようだ。扉野良人氏の『ボマルツォのどんぐり』出版お祝いの会でお見かけしたことがある。ピンクと白の組み合わせがタイトルによく合っている。 小西民子さんとも神戸時代以来のお付き合い。といっても個展のときにお会いするくらいだが。今、経歴を拝見すると君本昌久の蜘蛛出版社から『朝、あるいは』(一九七六年)、『捨テル』(一九八六年)を出しておられる。蜘蛛出版社とは気付かなかった。その後『ピクニックストリート』(編集工房ノア、一九九六年)があってこの『春のソナチネ』である。 詩集と言えば、先日いただいた『ガーネット』59号「あとがき」にこんな話が載っていた。 《某出版社(聞いたこともない)から「S先生、ご在宅でしょうか?」という電話がかかってきた。留守だったので用件を聞くと、その出版社の出している「花〇〇〇」(聞いたこともない)という雑誌に詩の依頼をしたいということだった。》 《数日後、再びかかってきた電話に妻が出ると、やはり例のアレだった。掲載料として八万円が必要という。もちろん彼女は断った。 こういう電話や郵便はたまに来る。たいてい、「先生の御作に感銘を受けまして」とか「誰々の推薦を受けまして」というふうに相手の虚栄心をくすぐり、最後には多額の掲載料や出版費を要求する。》 ああ、詩人の世界にもあるんだ、と感心した。考えてみれば自費出版の勧誘のようなものだから、あって当り前。そのアプローチがちょっと詐欺まがいなのが腹立たしい。 むろん絵の世界にもある。十年ほど前には美術評論家の誰先生(けっこう有名な実在の人物)の推薦でとか、イタリア人の美術評論家アンターワ・ダレーナ氏(実在かどうか分かりません)が先生の作品を気に入りまして是非出品していただきたいと申しておりますとか、おいしい前置きをして展覧会への出品や画集への掲載をもちかけてくる。そのころはたいてい三十万円かかりますが、先生の場合特別に半額でけっこうです、みたいな話になっていた。 最初はエッセイのネタにちょうどいいと思って、電話の相手にしゃべらせるだけしゃべらせていた。メモをとりながら(そのエッセイ『クチン』というフリーペーパーに書きました)。一時間くらいはとうとうとしゃべり倒す。ふんふん、と聞きながら、最後に「で、いくらいるの?」というと、さっきの値段が出て来るという仕組み。同じようなのが何度もかかってきた。 このところしばらく音沙汰がなかったと思っていると、一昨日、かかってきました。やっぱりイタリア人の美術評論家アンドレ・カンドレ氏が先生の作品をいたく気に入られまして南青山のナンターラ画廊での展覧会にお招きしたいと。「ハイハイ、で、いくらなの?」、「オープニングパーティなども予定しておりまして四万二千円とお徳になっております」、ガチャン! 数字が細かくなってきたのも時代だろうか。もし自分で画廊を借りればそれなりに費用はかかるわけだから、ほんとうに展覧会(グループ展です)が実現されれば、そのくらいの出品料金はそう高くないとも言える。「先生の作品が気に入りまして」とか言うからウサンクサイのだ。どの作品ですかと聞き返したくなるが、それは相手に失礼だしね(その気もないのに長々と聞くふりをするのはもっと失礼ではあります)。 そうすると、今夜、さきほど、創業は明治に遡るという某出版社が「小説文庫を新たに刊行することになりまして」とその子会社の某美術雑誌の編集者から電話があった。古くてそこそこ大きい会社だが、これまで文芸関係の文庫は出していない。以前個展会場で電話の主から名刺をもらったと言うが覚えはない。ただし長く編集長をやっておられた方はよく知っているので話だけは聞くことにすると、小説からイメージする絵を何十人かの画家に描いてもらって展覧会をやりたいと、親会社が企画しており(文庫の販促)、その交渉役が子会社の美術雑誌にまわってきたということらしい。こちらは無碍に断らずにいちおう書類を送ってもらうことにした。ほんのちょっとした違いなのだけど。
by sumus_co
| 2009-11-13 21:21
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