林蘊蓄斎の文画な日々
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文章術

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多田道太郎『文章術』(潮出版社、一九八一年四月二五日、装幀=田村義也)。ジャケ買い、といっても小生はほとんどがジャケ買いなのだが。はっきりいって田村本はあんまり好きじゃない。それでも中にはハッとさせられるデザインもあるから目は離せない。そんな一冊。

京都の現代風俗研究会(げんぷうけん)の「文章教室」から生まれたらしい。潮出版社の文章シリーズには桑原武夫『文章作法』、鶴見俊輔『文章心得帖』、橋本峰雄『論争のための文章術』。他に多田道太郎『日本語の作法』というのも出ている。多田の講義はなかなか面白いけれど、はっきりいって巻末の「付載」にみる諸家の文章論の方がさらに面白い。

《日本人の精神の文体というのは、ものを学んだり、勉強したりするのが好きなわけよ。しかし、それが趣味だけで終わるということがたまらんわけよ。》《そんなものの考え方をするのが、日本人の思考の文体や。文章読本とか何とか読本、ハウ・ツウもの、アメリカ人も好きらしいけど、ハウ・ツウものが好きというのは、結局、出世主義のことでしょう。ともかく日本は腕さえ磨いたら、必ず出世できるという幻想が、まだ抱けるような環境のところだね。東大出たら総理大臣になれると思っているんだな。文体というのはその人のものの考え方、しゃべり方でだいたい決まっていくんだと思う。》

これは富士正晴。文章術だからわざとくだけた会話体なのか、富士正晴らしいといえばいえる。ちなみに《東大出たら総理大臣になれる》について、目下の総理大臣は学習院大、前の人は早稲田、その前の人は成蹊大、その前は慶応、早稲田、早稲田、慶応、明治(村山富市)、成城、上智とさかのぼって、やっと宮沢喜一が東大だ。富士がこの原稿をいつ書いたのか分からないが、この本のために書いたとしたら、時の総理は鈴木善幸(1980.7〜82.11)だろう、鈴木は水産講習所卒、仮にその前だとしても大平は東京商科大。

ただし、敗戦後の総理は片山から岸、池田、佐藤まではほとんど東京帝大卒、石橋湛山の早稲田だけ例外。富士の文体論にはそういう時代の背景が見える。田中角栄以後、東大は福田、宮沢、中曽根の三人(といっても早稲田と同数だから少ないともいえないか、次も東大になりそうだし)。

《言葉は移り変わっていくものだから、スタンダードなんてないといえばないので、原稿を渡したあとで、漢字を開かれるとか、送り仮名を付けられるとか、新聞社や出版社等の基準に合わせて変えられることがありますが、或る程度はそういうことをされてもそれに耐えられるような文章を書きたい、というのが、わたしの気持です。》

富岡多恵子。

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『背文字が呼んでいるー編集装丁家田村義也の仕事』(武蔵野美術大学美術資料図書館、二〇〇八年、デザイン=馬面俊之)。このなかの「田村義也背文字年譜」がいい。年譜にその年に田村が装幀した本の背が写真版で入れてある。平を載せるとスペースを取るが、背はそうでもない。田村が装幀を多く手がけるようになるのは五十歳(一九七三)前後から。

『文章術』の出た一九八一年には四十一冊の背が並んでいる。ほぼそのペースで進んで二〇〇〇年七十七歳のときが四十八冊、翌年が十六冊、翌々年は病気のためかゼロ、その翌年八十歳の欄に一冊、『焚き火大全』(吉長成恭+中川重年+関根秀樹、創森社、二〇〇三年一月)が載って終り。

かつて大阪で展示された田村の装幀原稿をこの目で見たことがあるが、緻密な手書き原稿だった。七十歳後半で五十代と同じ数をこなすというのは相当なパワーが必要だろう。文字にも力が入っている。
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by sumus_co | 2009-08-29 19:54 | 古書日録
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