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フランス装考

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上の写真は昨日の時里二郎『胚種譚』の本体ジャケットを外したところ(グラシン紙がかかっている)。これは「フランス装」と言うものだと読者の方より御教示いただいた。はっきり言って、これが「フランス装」だとは思わなかった。いや、「フランス装」という言葉があまり気に入らないので、本ブログでもたぶんほとんど使ったことがないと思う。サイト内検索では《表紙は三方折り(いわゆるフランス装)》と一度だけ使ったことになっている(本日多数使います!)。

この折り返し方は「フランス装」でも何でもなく、和本の表紙の折り方とまったく同じである。和本の表紙はここに見返し紙を貼付けるので折り目が目立たないだけのことだ。三方ではなく四方を折るところも違うが、「フランス装」でも全体から考えれば四方を折り返している。要するに一枚の紙を強靭にする便利な方法なのだ。

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「フランス装」とは何か? これを追求した方がおられる。大貫伸樹氏である。『製本探索』(印刷学会出版部、二〇〇五年)に「フランス装の歴史」という一文があってとても参考になる。大貫氏は日本における「フランス装」(フランス綴、フランス表紙)と呼ばれる本のルーツを探し求めておられるのだが、その内容を箇条書きすると下のようになる。「フランス装」とは?

・仕上げ裁断をしていない(アンカットの)仮綴じ本
・それを角のまま四辺を折り返した紙表紙で包んだもの
 (背を糊付する場合としない場合がある)
・フランスなどでは自家装幀(ルリュール)のために仮綴じ仮表紙にしている
・フランスに特有のものではない。オランダで1785年に刊行された例
・日本では第二次大戦前後に多い

呼び方についての探索も興味深い。

・内田魯庵「書籍の話」(一九二八年)では「仮綴本」
・前田夕暮「明治期を回顧する」(一九三三年)に「フランス型アンカット」
・『書物語辞典』(古典社、一九三六年)では「フランス綴」
・武井武雄『書窓 製本之輯』(アオイ書房、一九四一年)では「軽装本」

「軽装本」以外はフランス書の仮綴本の説明で、いわゆる「フランス装」のことではない。日本では天地小口を仕上げ裁断した場合でも「フランス装」と呼ぶのが普通である。氏はいつから「フランス装」と呼ばれるようになったかは不明とされておられる。

フランスでは「フランス装」をどう呼ぶのだろう。仮綴本は「broché」だから「ブロシェ」でもいいのかもしれないが、折り返しがあるかどうかそれが問題だ。ざっと見たところ架蔵のフランス書には一冊もなかった(たいした数ではない)。フランスの古書サイトをいくつか調べていると「brochés, couvertures aux pans rempliés」という表記が目にとまった。どう訳せばいいのか心許ないが、「多面折り表紙、仮綴本」だろうか?(御教示たまわりたし)。

そしてこの表現を古書検索エンジンのキーワード欄に入力すると、思った以上の数がヒットした。次いでその刊行年を追ってみた。フランスでも一九二〇年代に頻繁に現れるようになり、三〇年代から五〇年代まではある程度コンスタントに作られていたらしいことが分かった。最古は一八九四年だった。七二年以降は二〇〇二年まで一件のヒットもなし。ということは日本でいわゆる「フランス装」が作られていた時期とほぼ重なるわけである。フランス帰りの作家などがリアルタイムで模倣したということになるのかな。和本と同じなので真似するのは簡単である(手作業らしいが)。

最近の日本では表紙の小口側(背と反対側)を見返しの方へ折り返しただけ(一方折り)でも「フランス装」(あるいは「仮フランス装」)と呼ぶらしい(拙著『文字力100』がそうだが、これは誰が言い出したのか、ちょっとどうだろう、もちろんフランスの本にもあるけど)。

湯川さんのジャケットに話を戻すと、たしかにこれはいわゆる「フランス装」の特徴を備えている。しかしまず折り返し部分が幅広過ぎる。天地側が70mm、小口側が110mm。普通は30〜50mm(『製本ダイジェスト』印刷学会出版部)。そしてマーメイドの四六判111kgという厚手の紙を使用している。それを深く折り返すわけだから、仮表紙にない重厚な感じが出る。実際にほとんどセミハードカバーの様相を呈している。いわゆる「フランス装」だとは思いもしなかった。そんなわけで「折りジャケット」なる言葉を用いたというわけである。

それにしても、いわゆる「フランス装」の初出が無性に知りたくなった。どこを探せば出てくるものやら。お気付きの方はご一報を!
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by sumus_co | 2009-08-01 21:48 | 古書日録
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