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鐵村大二と生活社生活社に関して河内紀さんが『彷書月刊』二〇〇二年三月号(特集・とある出版社の足あと)に「鐵村大二と「生活社」」を執筆しておられると御教示をいただいた。さっそく取り出してみると、付箋がたくさん貼付けてあった。すべて忘却の彼方である。『彷書月刊』さすがマニアの雑誌だ。 そしてさすが河内さん、所蔵されている生活社の書物から生活社の全体像をかなり正確にとらえておられる。図版として掲げられているのは『婦人の生活』(集成056)、『みだしなみとくほん』(集成061)、『すまいといふく』(集成070)、『くらしの工夫』(集成076)、『揚子江ノアヒル』(一九三九年、上図)、雑誌『東亜問題』一九四一年四月号、『日本叢書 すまひの伝統』(一九四五年)、『日本叢書 ペニシリン』(一九四六年)、『ボクラノウチ』(一九四二年)。 上図についてコメント欄で御教示いただいた。原本はマージョリー・フラック作、クルト・ヴィーゼ絵『あひるのピンのぼうけん THE STORY ABOUT PING』である。一九三三年にアメリカで出版された。クルト・ヴィーゼ(Kurt Wiese)はドイツ生まれで第一次大戦のときに中国で日本軍の捕虜となってオーストラリアへ送られ、その後アメリカへ渡った。三百冊もの児童書の挿絵を手がけているそうだ。鉄村は作者や挿絵について何も触れていないようだが(絵のサインはK.WEISEとある)、さて、当時の出版状況からしてどう考えるべきか。 ちなみに昭和十年が戦前の出版のピークで、以後少しずつ刊行点数は減少するものの、昭和十八年まではそんなに大きな落ち込みはない。思想的にも物資面でもある程度の制限は受けたにせよ、出版活動そのものは活発だったと言っていいと思う。本土空襲が本格化する昭和十九年から敗戦までがどん底だったことを除けば、戦時下では本はよく売れたのである。 河内さんは《「子どものための本」が鐵村がもっとも大切にしていた分野だったのではないか》と書いておられるが、昨日触れたように児童雑誌がその原点だったから、鋭い見方であろう。 もうひとつ河内さんの記事によれば小島輝正が生活社に勤めていた。一九四八年に入社しているが、するとそれは兄の鉄村真一に経営が移ってからのことである。これについて検索すると、またまた自らのブログにこのような記事を書いていた、やれやれ。 http://sumus.exblog.jp/7395874/ 中谷宇吉郎が鉄村について触れていることは河内さんは書かれておられないが、小生はこのブログを始める前の日録ですでにメモしていた(これも検索してやっと思い出した)。『春艸雑記』は飛ぶように売れ、学生だった令嬢も製本の手伝いをするほどだったとか。 http://www.geocities.jp/sumus_co/daily-sumus0512-2.html 国会の蔵書検索から判断すれば、生活社の創業はおそらく昭和十二年であろう。昨日十三年頃と書いたのは令嬢の記憶によるもの。創業にともなって世田谷から赤坂へ転居し、氷川小学校へ転校したのが十三年ということである。鉄村の生年は明治四十年。 また婦人画報社に勤めていた頃、中国に滞在していた時期があった。鉄村には『支那タングステン鉱誌』『長沙経済調査』(ともに生活社、一九四〇年)の訳書・著書があるし、生活社においては中国関連書がひとつの大きな柱となっている。 ところで「婦人の生活」シリーズは結局上記の四冊が刊行されただけのようである。その他に東京婦人生活研究会編『切の工夫』(築地書店、一九四四年、佐野集成101)が出ており、安並半太郎が「きもの讀本」を続けている。どうして生活社から築地書店に移ったのだろう。大沢慶寿の築地書店もよく分からないが、昭和十六〜二十一年の刊行物が確認できる。生活選書も築地書店に渡っていることを考えると(佐野集成096)鉄村と親しい人物だったか。ほんとうに想像は果てしなく広がって行くが、それを検証するのはいたって困難のようだ。
by sumus_co
| 2009-07-21 11:43
| 佐野繁次郎資料
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