林蘊蓄斎の文画な日々
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曽呂利新左衛門笑話

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昨日のつづき。曽呂利咄のネタにもなっているという安楽庵策伝『醒睡笑』(角川文庫、一九六四年)を上巻だけ持っているのでパラパラッとやっていると「鬼味噌」の由来について述べた話に目がとまった。「鬼味噌」とは唐辛子入りの味噌、あるいは「よわみそ」のこと(見かけは鬼のようだが内心は臆病な人)。

山寺を長年守っていた老僧が円寂(往生をとげる)した後、その寺の留守に入る僧がつぎつぎ行方不明になった。だれも住むという者がなく困っていると、ある行脚の比丘(びく)が大胆にも住み込んだ。すると案の定、三更(午前零時〜二時)になると老僧の亡霊が現れた。(現代口語拙訳については責任もちません)

「汝世を去つて程ありと聞く。如何なれば再来する」
 (あんたとっくに死んではるんやろ、なんでまたおいでやの?)
「我汝をあはれみ、一鉢の飯を与へんため」
 (ご苦労はんやね、ご飯でもあげよか思て)
「不思議や。亡魂の作法につひにきかず」
 (そんなユーレイ聞いたことないで)
「われは鬼にもなり、畜生乃至食物にも神通無碍なり」
 (わしは超能力がありまっさかいね、まかしとき)
「さらば湯漬を出し、焼味噌をそへて振舞はれよ」
 (それならお茶漬けに焼味噌もらおうか)
「やすきこと」
 (あさめしまえや)

と食物に変身したので比丘はペロリと食べてしまった。それ以後はなんのたたりもなかったとさ、めでたしめでたし。ここから怖い怖いと評判だけで実際はたいしたことのないものを「あれは鬼味噌ぢや」と言うようになったそうだ。

これは昨日の怪物をおだてて豆粒くらいにしておいて呑み込んでしまう話に似ているとも言えよう。また『曽呂利新左衛門笑話』(南図生、大学館、一九一四年五版)には「熊狩の奇習」という話があり、これはこのブログで昨年七月に紹介した橘南渓『諸国奇談東遊記一』(版元不明、寛政七年序)にも出ている。同じというだけで影響関係については何とも判断できないが。

http://sumus.exblog.jp/9192114

南図生については不詳。図南は荘子内篇にも見える言葉だが、それとは無関係か。「なんとしょう」か「南都生」で奈良出身か、などと想像をたくましくする。巻末発行書目にも南図生名義はこのタイトルだけ。他には野狐狂禅★、図書狂生、尾花庵二十坊主★、天籟居士★、甘藷子、可笑楼喜楽、年期小僧★、哄笑子、娯苦楼千万、笑門福来★、不思議堂、すみれ小史★、斜笠道人などなど、珍妙なペンネームが並んでいる(★印は日本の古本屋でヒット)。ちなみに『曽呂利新左衛門笑話』の巻末に載っている大学館の出版広告の一部。

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これらの著者羽化仙史(★)とは渋江抽斎の嗣子渋江保である。

《【大学館】社主岩崎鉄次郎は紀州の人と伊狩章が記している程度でまとまった情報はない。明治22年同人名で刊行された受験参考書が残るが、大学館名義のそれは30年の出版が最古。井上唖々を迎えることと雑誌〈活文壇〉の刊行で巌谷小波の木曜会と繋がり、同会関係者の著作を刊行して行く。特に押川春浪の著作が版を重ねるが春浪の博文館就職に伴い、新著が期待できなくなり、後を埋める存在として渋江(=羽化仙史)の小説が刊行される。春浪とは異なりエログロの度合いが高く、多くが未完結ということもあって、おすすめしかねるが、従来入手困難であったテクストの多くは近代デジタルライブラリーによってネット上で読むことができるようになっている》(藤元直樹)
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by sumus_co | 2009-06-19 21:37 | 古書日録
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