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大阪百話 千日前

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長谷川幸延『大阪百話千日前』(新小説文庫、新小説社、一九五一年一〇月二〇日、装釘=杉本健吉)。体験的な大阪随筆。例えば「めおとぜんざい」(本書のママ)、

《法善寺横丁のぜんざい屋は、店の名をいうより、めおとぜんざいといつた方が通りのよい、古いのれんである。何しろ中村宗十郎の弟子だつた中村銀蔵が、役者の足を洗つてはじめた商売だ。中村宗十郎は上方近世の名優、中村鴈治郎も宗十郎を母胎として大成した。その宗十郎は、明治二十二年の十月に死んでいるから、めおとぜんざいはそれ以前の創業になるのである。》

《信吉の祖母は、幼い信吉相手に、よくそんな諧謔混りの話をしてきかせた。
「その時分、ぜんざいは大阪中どこへ行つても、たいてい二銭やつた。一杯二銭のぜんざいを、どれだけ盛りをようしても、一杯は一杯や。それをあの店は、半分ずつ二つの器に入れて出した。中身は少々すくのうても、二杯は二杯や。それを、二杯二銭とあらわにいわず、二つならんでるさかい、めおとぜんざい。する事が粋やがな。それが大阪の人間の気に入つて、人気が出た。銀蔵という役者は、芝居は下手やつたが、商売は上手やつた……」》

《こゝでは、小豆は大納言、砂糖は三盆白のほかはつかわない、というのが自慢でもあり、宣伝でもあつたが、ぜんざいをのせて出す盆へ、わざと三盆白を、ほんの少しこぼして客の前へ出したという。大阪の客である。中には指先につばをつけ、それをなめてみて、
(うん、こら真正[ルビ=ほんもの]の三盆白や……)
 などと、うなずいたものもあつたろう。そして銀蔵は、こぼした三盆白がなくなつてもどる盆を、にやりと笑つて眺めたことであろう。
 近年にもそういう例はいくつかある。心斎橋筋の茶舗川口軒では、必要以上に焙じ茶を焦がし、松前昆布では店の土に酢をまき、ともにその匂いを街路へ発散させて、
「ああ、川口軒や」
「松前昆布が近い……」
 その存在を、嗅覚から認識させてものだ。
 そこに大阪商人の骨法があつた。》

ただし信吉(すなわち長谷川幸延)の祖母によれば「何しろ[中村銀蔵は]江州人やさかい、商売上手や。めおという名をつけたんも銀蔵の女房自慢の気持からやろ」とのことで、どうやら大阪人も一目置くのが近江商人らしい。下は鍋井克之『大阪繁盛記』(布井書房、一九六〇年)に載っている「めをとぜんざい」の店頭図。

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《私等がこれを食い初めた時代には、二銭とか三銭とかで、一度に二杯のぜんざいを持って来たが、この器は、鉢のフタのように、薄っぺらで、汁はこしあんであった。つきたてのやわらかい餅(餅米に米をまぜたウル餅に近いもの)の小さいのが一皿に二個はいっていて、これがあまりにも腹にたまらずにらべられるので、食後でも気が進むことになる。》(鍋井克之「法善寺界隈」)

÷

『ナカノショテンモクロク VOL.13』に「出版のお報せ」として『正誤正刪『日本近代文学事典・机上版』』(結城秀雄編、蓜島亙製版)の広告が出ていた。見本ページを見ると細かいところまでチェックされている。『日本近代文学事典・机上版』(講談社、一九七六年)はとても便利だが、たしかにこれは必要だろうなあ。石神井書林の古書目録78号も届いた。小特集・戦争の中の詩集/詩集の中の戦争。
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by sumus_co | 2009-06-09 20:56 | 古書日録
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