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雨ニモマケズ

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宮沢賢治にさほど関心があるわけではないが、この本、森荘己池『宮沢賢治物語 雨ニモマケズ』(小峰書店、一九五九年七版)、つい読んでしまった。裸本の表紙と扉、この絵は森芳雄かと思う。小学校高学年ていどに向けて書かれているため、しかも充分な調査に基づいているため(森は全集の編纂を手伝っていた)、ただやさしいだけではない、リアリティがある。

一言で言えば、賢治はファザコンだ。父というものが、その行動のすべての軌範になっているような気がする、むろん反面教師という意味で。よほど質屋という家業に違和感をおぼえていたのだろう。例えば花巻農学校時代のこと。

《宮沢先生は、毎月給料をいただくと、四五日の間になくなってしまったということです。勉強するために本を買い、こまっている人にお金をわけ、お家に下宿料を出すと、もう百円近くの給料は、すっからかんになっているのでした。》

浪費というのではない、反抗だろう。宮沢賢治もまた研究され尽くしているから、門外漢のいらぬ穿鑿はこのくらいにしておく。羅須地人協会をつくったころの執筆のようすは印象深い。

《先生は、いそがしいお仕事を持っておられたので、昼は、そのお仕事をして、童話や詩をお書きになったのは、たいてい夜でした。昼にお書きになることもありましたが、そういう時は、いつでも、歩きながら、小さい手帳に書きました。首から、細いひもで、シャープペンシルをつるして、手帳はいつでもポケットにはっていないことはありませんでした。ご用で外に出られるときはかならず、それに詩を書かれました。
 たんぼみちでも、汽車の中でも、何か書いておりました。そして、夜、たれもかれも寝てしまってから、その手帳に書いた詩を、ここがいけない、ここは、こうあらわした方がよいと、なおされました。
 下根子のお家の二階が、本を読んだり何か書いたりするお部屋でしたが、そこの窓には、夜おそくまで電燈がついているのでした。》

シャープペンシルというのがおもしろい。昭和初期のことだから、たぶん安ものじゃなかったはず。そう言えば、あのプラトン社もシャープペンシルを作っていた。

妹とし子の死のところでは「永訣の朝」ではなく「松の針」が引用されていて、やっぱり泣ける。泣けるところはともかく、最後はこう締めくくられている(引用は本文による)。

  そら
  さわやかな
  turpentine の匂もするだろう

ターペンタインは松脂からつくった溶剤。芳香がある。小生は油絵具を希釈するために毎日その「さわやかな」匂いを嗅いでいる。馴れない人には臭いかもしれないが。

÷

将棋名人戦、挑戦者の郷田九段が第五局を圧勝して(ちょっと考えられないくらい一方的な勝ち方だった)、さて次の対局が待ち遠しくなった。今回は全体を通して挑戦者の方が冴えているようだ。だから勝つとはかぎらないところが勝負の怖いところ。
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by sumus_co | 2009-06-05 21:30 | 古書日録
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