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エイ・シャク・バイ

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四天王寺の百円均一でこの『改造』六巻八号(一九二四年八月一日)を買った。もともと状態の悪い本の上に、ちょうど初日がたいへんな雨で、その影響でかなり湿気がきていた。それでも内容の面白さでつい拾ってしまった。「余技と趣味」特集がある。そこに辻潤が「エイ・シャク・バイーれんれつれつれー」と題して、尺八との関係を書いていた。

「エイ・シャク・バイ」とは宮嶋資夫が辻につけたあだ名であって、辻が下谷稲荷町に住んでいた頃、「英語、尺八、ヴアイオリン教授」という看板を出していたことにちなむとか。英語には弟子が何人かできたが、尺八には一人も来なかった。ヴァイオリンは佐藤謙三が教えることになっていたが、こちらも弟子は集まらなかったそうだ。

辻の尺八好きは七八歳の頃からで、自己流で吹きまくっていた。開成中学を中退した後、琴古流の荒木竹翁に入門していっそう熱を上げた。プロになろうと思って師匠に相談すると、こんこんとその不心得を戒められた。また琴古流は流行歌などを俗曲として演奏することを禁じていたが、

《俺は勝手になんでも吹いた、殊に追分とか米山甚句などと云ふ民謡は単独で吹く場合一番尺八に適してゐる、それをやかましく云ふのはつまり音楽上のブルジヨア意識と云ふ奴さ。俺は耶蘇になつてゐた時は盛んに尺八で讃美歌を吹いてゐたものだ、これなど全く異端外道の類ひだ。兎角、俺は昔から芸術上の悪趣味にかぶれ易いので遂にダダイズムなんかをふりまわすようになつてしまつたのだ。》

しばらく尺八を離れた後、竹翁の高弟だった可童を二度目の師匠とした。可童には永井荷風も習っていたようだ。そして《早晩、亡びるべき運命を持つた楽器だと思ふ》《俺はだが今でも旅に出る時は必ず携えることを忘れない》《「惣領は尺八を吹くツラに出来」とは夙に江戸の川柳子の喝破したところだ》と締めくくっている。辻の杞憂だったかどうか、尺八はまだ滅びてはいないようである。

÷

装幀をさせてもらった美濃瓢吾『逐電日記』(右文書院、二〇〇九年)が届いた。平賀敬、種村季弘、秋山祐徳太子などとまったりと昵懇になってしまうミノ・ヒョーゴなる不思議な人物の精細な人間観察の記録である。スズキコージとの対談「恋をしましょう恋をして」はケッサク。

吉岡実の名前が出て来たので引用しておく。昭和六十一年五月からミノ氏は浅草木馬館の売店を手伝うようになった。そこへ種村が現れる。しばらく遠のいていた種村の浅草が復活した。

《以後、種村さんは機会あるごとに浅草に顔を出した。種村さんの呼びかけで詩人、吉岡実の何回忌かを一階木馬亭でやったこともある。社長の根岸さんにストリップダンサーを呼んでもらった。》

この装幀は画家であるミノ氏のレイアウトにほぼ従った。その意味ではラクチンだったが、ただ、あまりにそのデザインのセンスが良かったため、かえって手の入れどころに迷ったのも事実。文字の指定が少々地味だったので、思い切ってタイトルバックを黄色と赤の「大入」にした。見ての通り派手にはなったが、それがいいのかどうかは分からない。装画はミノ氏の作で、本文中にも独特な絵が多数挿まれている。

巻末にこうある。

《堀切直人さんはじめ何人かで、浅草で年のうち何回か顔を合わせるようになり、初めて青柳さんを紹介された。もう三年以上は経つと思う。その間、時間が過ぎるにつれて、何を言うでもなく青柳さんの存在がじわじわと顔を覗かせてきた。ボクシングで言うところのボディーブローが利いてきた。だから、そういう存在であればこそ、青柳さんとの息も合った。私はいつのまにか原稿用紙に向かっていた。》

青柳流編集術の奥義を見る思いがする。
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by sumus_co | 2009-06-02 21:19 | 古書日録
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