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私の本作り

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『季刊銀花』で湯川書房特集を、と書いたが、実は第十四号(一九七三年六月三〇日)で「湯川の限定本」として紹介されていた。この号は持っていないはずと思い込んでいたら、ひょっこり顔を出した、というか探し物をしていて偶然に見つけたのだった。最近、そんなことばかり。

塚本邦雄が「稀書陸離譚」と題して湯川書房刊の『茴香變』について語っている。

《製作装釘造本にかかるすべてを宰領してくれた政田岑生は、かつて広島で「洪水」と呼ぶ抜群の詩誌を編輯してゐた詩人、当時サウル・アタインバーグやベンシャーンを表紙に飾り使用紙の銘柄斤数まで巻末に明記した「洪水」を訪問先の寺山修司に示され感嘆しあつたものである。即刻バック・ナンバー注文耽読の記憶も薄れた十数年後、彼は突然私の前に現れ夢の実現を約してくれた。夢とは数千首に垂(なんな)んとする私の短歌作品から作者溺愛の百首を選び頁毎に一首を置き、一首一首に作品の世界を暗示する図版、絵画、写真を極彩色印刷で飾るといふ贅沢の極であつた。この夢は彼の存念でもありかつ湯川書房の庶幾(しよき)するところであり、企画は直ちに実行段階に入つた。》(原文旧漢字使用)

政田岑生について、塚本はよほど『洪水』との出会いが印象的だったか、先日も紹介したように繰り返し語っている。上に続いて湯川書房の本作りについて語り、さらに肉筆本『蒼鬱境』におよぶ。

《もつとも私の場合は政田岑生独特の美意識が加はり、従来の湯川本に異彩を添へる結果ともなつた「蒼鬱境」の贅を尽した肉筆本は、もし私がたとへば後京極様の流れを汲む名筆であつたら後世に遺る稀覯本となつただらう。遺憾ながら高野切三種の稚拙なまねびくらゐでは佐賀錦が哭いてゐよう。》

『spin』創刊号を見ていただければ分かるが、小生も『蒼鬱境』は間村俊一氏のアトリエで実見した。名筆ではないが、独特のタッチである。

それにしても湯川さんの文章「私の本作り」は『spin』04に採録すべきだった。じつに率直に本造りについての思いが吐露されている名文だ。この銀花は架蔵してたわけだから、迂闊も迂闊、大しくじりである。04号はしくじりの多い号だった。

《私の刊行本はほとんど少部数の限定本であるわけだが、実は最初から限定本を作ろうと意図したものでもなかった。無論、少部数に限定されたものには争い難い魅力がある。しかし、その魅力も本を手にする側でのことであって刊行者の側にあるわけではない。私は自分の意のおもむくままに美しい本を作りたいと願った。その結果として発行部数が限定されたまでである。》

《ステファヌ・マラルメ『半獣神の午後』初版本への愛着を綴られた鈴木信太郎の随筆に出会った。このマラルメの世界的に著名な本をいまだに見る機会がないのだが、鈴木信太郎の文章を読んでから、想像の『半獣神の午後』が脳裏にこびりついて、妙なことに見もせぬ一冊の書物が結果的には装本に手をつけさせる発火点のようなものになってしまった。》

だから湯川さんの処女作である辻邦生『北の岬』には『半獣神の午後』がどことなく影響しているらしい。そしてコブデン・サンダスンの《所謂『世間』なるものは勝手にさせるがいい!》を含む一文を引用した後に、こう結んでいる。

《いつの日にか、書物の工房を作りたいと思っている。一つの場所で、印刷から製本、製函、一冊の書物を作り上げるに必要なすべての作業ができる工房である。そこには、版画を創作できる場所もある。美しい書物を作りたいという同じ意志を持った者たちが寄り集まって揺籃印刷本時代に逆戻るのが夢である。》

この夢が夢のまま潰えてしまったことは『spin』に再録したインタビューでも語っておられる通りである。「世間」を勝手にさせておくことは湯川さんにはできなかった。湯川さん自身だけのことならともかく、工房という集団においてはなおさら不可能であった。ユートピアは実現しないからいいのかもしれない。ユートピアを実現してしまえば、それが「世間」に転じるにそうひまはかからないだろうから。

もう一冊、松本八郎さんが「須川誠一の造本感覚」を執筆している『本づくり大全』(美術出版社、一九九九年七月一〇日)も出てきた。湯川書房の本が出ているので掲げておく。

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by sumus_co | 2009-05-28 22:02 | 古書日録
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