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優良工業図書目録

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『優良工業図書目録』(工政会出版部、一九三三年十月)。何ヶ月か前に尚学堂書店の表で見つけて、落書きがあるので買わなかった。しかし先週見るとまだ残っていたので、今度は落書きがあるから買う事にしたというわけ。

工政会は大正七年に組織された、工学会、機械学会、建築学会、工業化学会、造船協会、鉄鋼協会、電気学会、土木学会など十四団体の技術者たちを中核的な指導者とする運動団体だったそうだ。「工芸・美術・趣味」の部門に青山二郎、浅川巧、柳宗悦、石丸重治らの名前が並んでいた。青山二郎は初期の主な著作四冊を工政会出版部から出していたのである。

落書きの一部を紹介する。すべて赤いクレヨンで十数箇所にわたって書かれている。

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ウサギが旗を持っているので思い出したが、先日ふと耳にした童謡の「兎と亀」(作詞=石原和三郎)の二番が気になって仕方がない。今、原詞が見つからないので、ネットで拾ったものを引用するとこうなっている。

  なんとおっしゃる 兎さん
  そんならお前と かけくらべ
  むこうの小山の 麓まで
  どちらが先に かけつくか

兎に「どうしてそんなに のろいのか」といちゃもんをつけられて、カッとなった亀が売り言葉に買い言葉で競争をもちかける。これがどうしても解せない。勝てる見込みのない競争をおっぱじめるとは、亀はそんなに短気だったのか。この大逆転を日露戦争になぞらえているのかもしれないが。

オリジナルの語は例えば渡部温訳『通俗伊蘇普物語』にある。渡部訳は明治六年に公刊されて好評を得、小学教科書にも採用されて広く知られるようになった(ただし今ざっと見たかぎりでは、江戸時代の『伊蘇保物語』には「兎と亀」という話は収録されていないようだ)。

渡部温訳では亀の気持はこうである(東洋文庫、二〇〇一年)。飜訳に用いた原書はトマス・ジェームズの『AESOP'S FABLES』(John Murray, 1863)だったとか。

《亀は迷惑には思へども一ツ処へおし並び。サアと云はれて寸分[ちつと]も猶予せず。例の通り遅々[のそりのそり]とあるき出す》

「迷惑には思へども」仕方なく競争するはめにおちいる。それなら分からないこともない。亀はいつも遅々[のそりのそり]と歩くばかりでなく、走るとけっこう早いらしい。石原和三郎はイソップではなくラ・フォンテーヌの「Le Lièvre et la Tortue」(野兎と亀)から翻案したのかもしれないが、しかしそれにしても彼の亀は無謀だ。百歩譲って、もし亀が競争を挑むとしたら水泳でなければならないだろう(それじゃ兎と亀が逆になる?)。とにかく孫子やマキャヴェリの教えにも背く、あまりに不条理なストーリーである。

と思っていたら、ペルシャ版の「兎と亀」はひと味違った。ペルシャでは亀が一計を案じ、自分とそっくりの兄弟をゴールで待たせておいて、兎を恐れ入らせるという話になっているそうである。なるほど、これなら亀が勝負を挑んでもおかしくはない。同じ土俵で弱者が強者に勝つには詭計が必要だ。むろんこれを勝ちと言えるかどうかは別問題だが……。
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by sumus_co | 2009-05-14 21:56 | 古書日録
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