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青い花

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勧業館で買った中谷孝雄『同人』(講談社、一九七〇年)にこういうくだりがあった。

《「『青い花』が潰れたのはボクが中村とケンカしたからです。中村が芸術家なら太宰は俗物に過ぎないでせう。太宰が芸術家なら中村は決定的な俗物です」
 中村はその頃、東京新聞の学芸部の記者をしてゐた。》

これは中谷が『日本浪漫派』の同人になるよう太宰治の家へ勧誘に行ったときの会話である。『青い花』は太宰や檀一雄、木山捷平、中原中也、津村信夫らが同人だった雑誌で昭和九年十二月に一号を出したきりで休止となった。その理由を太宰が説明している。すなわち太宰と中村が仲違いをしたからだと。

中谷は《東京新聞》と書いているが、実際は都新聞(昭和十七年から東京新聞になった)に入ったばかりだった。中村と太宰は東大の学生時代、井伏鱒二の弟子のような形で井伏のところで知り合ったらしい。翌十年、太宰が都新聞へ入社しようとしたのは中村の勧めだったようだ。

もうひとつ気になって『中村地平全集』(皆美社、一九七一年)第三巻の年譜を当ってみたが、中村地平が『青い花』に参加したとか、何か書いたという記述はなかった。ただしこの全集の年譜はやや頼りない。ネット検索してみると、『酔いざめ日記』(講談社、一九七五年)に関連した記述があるらしいので、押入から引っ張り出す。昭和九年十月十三日。

《中村地平より来信(十二日)同人決定、是非「青い花」に参加を確信するとの由。創刊号は一月。二十日に会をなす由。》

また山岸外史『人間太宰治』(ちくま文庫、一九八九年)にはまるで昨日のことのように詳しく『青い花』という雑誌を太宰が構想しているという話を中村地平から聞いた山岸が太宰の家に乗り込んで、二人は急速に親しくなるというくだりが冒頭から蜿蜒と続いていた。

《「青い花」はこの年の十一月十日に銀座の「山の小屋」で発会式をあげた。天才? たちの集会であった。太宰治、中村地平、今宮一、檀一雄、森敦、津村信夫、伊馬鵜平(春部)、小山祐士も来たのであったかどうか。(中原中也は、すでに亡くなっていたはずである。木山捷平は、このとき出席していたかどうか。北村謙次郎も、欠席したような記憶があるが。)》

『酔いざめ日記』にこの日の記述は収録されていない。中原中也が殺されているが、もちろんこれは山岸の勘違い。中也の死は昭和十二年十月二十二日。そして『中原中也全集』別卷(角川書店、一九七四年再版)の伝記年表にも昭和九年十一月十日の記述はない。『青い花』の名前は第四卷に一度出ているらしいが、第四卷は架蔵せず。

そして山岸はこう続けている。

《「青い花」は、太宰、檀、久保[隆一郎]の三人で第一号を編集してだしながら、ついに、第二号はでなかった。(これは、ぼくの責任である。第二号は、ぼくが編集することになっていたのだが、どうも、その前後の状況が気にくわなくなってにぎり潰したという訳である。》

ふうむ、みんな自分のせいにしたがるようだ。

中谷孝雄にもどると、中谷は一世代若い保田与重郎と意気投合して新しい雑誌を出そうということになった。淀野隆三が三笠書房に交渉して発行していた『世紀』に中谷は加わっていたが、そのまま新雑誌『日本浪漫派』にも加わろうとしたところ、『世紀』の同人たちから異論を受けて、脱退してしまった。そして『日本浪漫派』に小説が書ける人間を集めようと試みたのである。『青い花』の同人たちに目を付け、まず親しくしていた木山捷平に声をかけた。木山はすぐに承諾したので、次に太宰を引き込むように頼んだ。『酔いざめ日記』にはこうある。昭和十年二月二十日。

《中谷孝雄氏と共に昨日の約束にて、蔵原伸二郎を田園調布に訪問。夜おそく帰る。小生「青い花」の中より、太宰、山岸を日本浪漫派に合流さすこと引き受ける。
 太宰訪問。一統四、五人と一緒でなくては入らぬとなり。
 山岸訪問。(雨となり困る。タクシーにのったりする)初対面。山岸、明日太宰と会って見ようというなり。
 中村地平を都新聞に訪う。この男も入ろうと言わず。雨の中ぬれそぼち帰宅。》

結局、山岸が太宰と中村をともなって中谷を訪れ、『青い花』と『日本浪漫派』の合同ということにして欲しいと要求した。中谷は『日本浪漫派』の同人たちに諮り、それは受け入れられた。そういう流れのようだ。
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by sumus_co | 2009-05-07 23:08 | 古書日録
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