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てふてふ一匹め

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『ちくま』四月号。表紙の古書店は京都寺町通の大観堂さんである。

午前中、名古屋で Pippo さんから頂戴したCD「てふてふ一匹め」(チンチロリン商店、二〇〇九年)を聴きながら古い岩波文庫の絵を描く。このところBGMとしてオスカー・ピーターソン・トリオ 「 ナイト・トレイン」(原盤は1962年発表のベストセラー)ばかり繰り返し聞いて「Cジャム・ブルース」が頭にこびりついて離れなくなっていたので(他のものを聴けばいいわけだが、MDを交換するのが面倒くさいのでついくりかえし何十回と。CD不能になったデッキだがMDは健在)、Pippo さんの朗読は一服の清涼剤となった。

収録作品等は下記参照。
http://blog.livedoor.jp/pipponpippon/archives/51119225.html

このメンバーの選び方がかなり通だ。思潮社に勤めておられたというだけのことはある。高橋元吉が二作、新島栄治、草野天平というあたりは意表を衝かれて、しかもなかなか新鮮だった(といってもほとんど詩集なぞ読んだこともないが、詩集の値段には敏感なんだけど……)。高橋元吉はもう少し読んでみたいという気持になった。

なかに金子光晴訳のランボー「感覚」も入っていて、こんなふうに訳されているんだと、久方ぶりに感心してしまった。金子が訳したランボー詩集を、もうずいぶん昔、読んだ記憶がある。調子はいいのだが、飜訳としてはこれでいいのか? と疑問符が付く部分も少なくなかった。うまい誤訳のほうが、たいくつで正確な飜訳より、楽しめる。しかし一歩間違えば「ピッツァ」と「クレープ」がどちらも「お好み焼き」になってしまう恐れもある。いくらおいしくても、これでは困る。けれども、フランス語を習って読んだからといってランボーが理解できるわけでもないだろう。解る解らないの問答となると、なおさらややこしい。なら、だまって騙される方が幸せかもしれない。

 『SENSATION』

夏のさわやかな夕、ほそ草をふみしだき、
ちくちくと穂麦の先で手をつつかれ、小路をゆこう。
夢みがちに踏む足の、一あしごとの新鮮さ。
帽子はなし。ふく風に髪をなぶらせて。

話もしない。ものも考えない。だが、
僕のこころの底から、汲めどつきないものが涌きあがる。
さあ。ゆこう。どこまでも。ボヘミアンのように。
自然とつれ立って、――恋人づれのように胸をはずませ……

               アルチュール・ランボオ(金子光晴訳)

Sensation

Par les soirs bleus d'été, j'irai dans les sentiers,
Picoté par les blés, fouler l'herbe menue :
Rêveur, j'en sentirai la fraîcheur à mes pieds.
Je laisserai le vent baigner ma tête nue.

Je ne parlerai pas, je ne penserai rien :
Mais l'amour infini me montera dans l'âme,
Et j'irai loin, bien loin, comme un bohémien,
Par la nature, heureux comme avec une femme.

Arthur Rimbaud
Mars 1870.

例えば「les soirs bleus」を《さわやかな夕》としているが、ブルーにそんな意味があるのだろうか。ブルーはどちらかと言えば病的な色。ピカソの「青の時代」みたいに。念のためマルセル・リュフの註釈("Arthur RIMBAUD POÉSIES", Éditions A.-G. NIZET, 1978)を読んでみると、この作品には二つの原稿が残っており、最初に書かれたヴァージョンでは「Par les beaux soirs」となっているようだ。これなら《さわやかな夕》でいいだろう。

この小品の全体からして、この時期(習作から脱しつつある)のランボーとしては例外的に「さわやかな」感じの、しかしその孤独がひじょうによく現れている作品だ。夕べは複数形になっている。夏、夕方になると毎日のようにランボーはたった独りで麦畑の小径をさまよっていた、「遠い、遠いところへ行んだ、ジプシーのように」と心でつぶやきながら。

実際にランボーは、後年、この言葉の通り、地中海や、アフリカ、中近東を渡り歩くことになるのだが、それにしても金子訳の《さあ。ゆこう。どこまでも。》には違和感を覚える。決してランボーは遠くへ行きたいわけじゃない、にもかかわらず内面に駆り立てるものがある……、と、こんなふうに書いてしまうと、これもまた嘘くさくなる。
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by sumus_co | 2009-03-27 22:15 | 古書日録
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