林蘊蓄斎の文画な日々
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三太郎

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昨日『彷書月刊』3月号、特集「労働と文学」が届いた。『蟹工船』ブームにあやかろうというわけだろうが、さすがのボリュームだ。特集はそれとして、南陀楼綾繁氏の連載に「文庫とブログで本の可能性を掘り起こす」と題してウェッジ文庫が紹介されていた。今、うわさのウェッジ文庫である。南陀氏はブログ「qfwfqの水に流して Una pietra sopra」の主がウェッジ文庫の編集長だということを教えてくれている。へえ、と思う。

《ブログの主の名は、服部滋さん(一九五一年生)。大学を卒業した後、「日本読書新聞」の編集者となる。その後、映画雑誌『イメージフォーラム』の創刊に携わる。これまでに十社以上の会社に属したり、フリーランスとして、雑誌や単行本を編集している。ウェッジには二〇〇一年に入社した。》

小生も「qfwfqの水に流して」については津田京一郎氏の「板倉鞆音捜索」(『spin』02掲載)にその渋い好みが紹介されていて、興味はもっていたものの、のぞいたことはなかったので、今回、最近の記事を読んでみた。

例えば「上司小剣コラム集出づ!」(09-01-18)では《コラム集に着目した書肆龜鳴屋の慧眼をたたえたい。》と書いておられる。なるほどシブイ。先日、ある古書店主から「龜鳴屋さんが『上司小剣コラム集』を出しました! びっくりしました。本は何度も売ってるけど、読んだことなかったです」という意味の感嘆メールが来たのを思い出す。龜鳴屋さんといえば、ここでも何度も紹介しているが、やはり凄腕の編集人であり出版人である。なんと、谷崎潤一郎偽作(「誘惑女神」)などで知られる倉田啓明の『稚兒殺し 倉田啓明譎作集』まで刊行しておられる。その刊行のきっかけが愉快だ。

《「誘惑女神」を偽作だと指摘した細江光氏は、啓明の諸作品について「倉田の作家的天分、学識が、ともに三流以下であることは、それらの文章を一読すればあきらかである。」とバッサリ切って捨てておられますが、龜鳴屋は縁あって作品を一読、捨てたもんでもないんじゃないと、奈落の底から拾い集めて一本にまとめることにいたしました。》

こういう人がいるから世の中おもしろい。

また「本とつきあう法」(09-02-11)には堀江敏幸がエッセイ集『回送電車』に「古本のなかにさりげなくはさまっている紙切れが好きだ」と書いていることから、古本に挟まれていたものへと話を広げ、そして

《最近入手した「漂流物」についても書いておこう。はじめて出遭った珍品である。本は内田魯庵の『貘の舌』、大正十年に春秋社から発行されたものである。はさまっていたのは竹製の耳掻き。なんの変哲もない安っぽい耳掻きで、元の持ち主が栞代りにはさんでおいたのかもしれない。耳掻きねえ、と指でつまみあげ、ふとその頁を見て思わず莞爾(にっこり)した。章題には「貘の耳垢」と書かれていた。》

……うまいサゲである。

すると、ちょうど、まったく偶然にも、ブログの読者の方より、《正木不如丘「三太郎」春陽堂刊を求めました。中から10×20cmぐらいの当時(大正?)の婦人の写真2枚出てきました。以前、林さんが古書から出てくるモノの蒐集をされていると「暮しの手帖」に書かれていたように思います》ので差し上げます、というメールをいただいた。なんというタイミング、その現物が上の写真である。大正時代(?)のプリクラ(これは商標登録されているが、使ってもいいらしい。なおプリクラを生んだアトラスは業務用ゲームからの撤退を発表したそうだ)。ペンダントか何かに入れておくためのものか(?)。

送ってくださった某氏は一九五〇年代に病気療養中、ラジオから「三太郎」の朗読が流れていて、BGMがラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」だったということまで記憶されておられるが、その原作が読みたくて、ずっと探しておられたそうだ。結局、知っていながらまだ使ったことのなかった「日本の古本屋」にトライしてみると、あっけなく入手できたという。そしてこんなオマケも付いてきた。古本は運び屋なのだ。
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by sumus_co | 2009-02-26 21:08 | 古書日録
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