石川達三『母系家族』(新潮社、一九四〇年、装幀=高岡徳太郎)。上は函絵。きれいだとけっこう高い本だが、これは、函壊れ、印もあって100円。高岡徳太郎なので買っておくことにした。
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岩田豊雄訳『北ホテル』(Eugène Dabit, L'Hôtel du Nord)を読み終わった。パリの下層社会に生きる人々が容赦なく描かれていて面白かった。プロレタリア小説といっていいのだろう。映画(マルセル・カルネ、1938)はずっと昔に観たような……多少あいまいながら、ほとんど印象に残っていない。
宿の主人ルクーヴウルが散歩をするくだり。
《グランド・オウ・ベル街に出る。彼はそこの「労働書房」の、書籍の陳列窓を一瞥するために行くのである。山と積まれた本や、赤表紙のパンフレットの中に、レーニンの肖像が鎮座している。》
グランド・オウ・ベル街はどこだか分からないが、北ホテルのあったのは10区のサン・マルタン運河(のジェマップ河岸 102 quai de Jemmapes)が曲がっている角のあたり。作者ウージェーヌ・ダビの父親が一九二三年に手に入れたという。その頃、ダビは絵描きになろうとしており、ホテルに住んで少しはその仕事も手伝ったらしい。労働者たちに対する観察が濃やかなのはそのためだった。
《兎はクタクタと煮詰まつてきた。いい匂いが、部屋一杯に流れる。……プリュウシュは、テーブルの上に置いてある本を取る。綴目の半分壊れた、垢染みた古本である。頁を開けて、読み始めたが、やがて、煮物の匂いがあまり強いので立ち上つて「換気」をよくした》
《「それア、料理の本かい?」
「なあに、『笑う男』だよ。ユーゴー翁のな。先駆者だつたな、彼は。君は『恐怖時代』を読んだかい?」
プリュウシュは、若者が恋を語るように、どめどもなく、政治話を喋りだす。》
岩田の訳はこなれているが、一カ所、意味不明のところがあった。
《肋骨付きの紫色の「ピジャマ」を着て彼は、店で朝食を摂つていた》
肋骨付きのピジャマ? う〜ん、pyjama en côtes だろうか。côtes は畝ということなので、おそらくセーターのように編み目(織り目?)が畝状にはっきりしているパジャマということだろう、肋骨が付いていたら、ちょっと怖いかも。
この件については下記に追加記事あり。
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