林蘊蓄斎の文画な日々
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O嬢の物語

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ポリーヌ・レアージュ(REAGE Pauline)『Histoire d'O - Ilustré Par Léonor Fini』(Jean-Jacques Pauvert, 1975)。レオノール・フィニの挿絵入り。これは日本で求めたもの。ジャン・ジャック・ポヴェールはこの時期アシェット・グループに吸収されていた。日本でもアシェット・婦人画報社があるが、そういう状態だったのだろう。悪くはないが、売らんかなの気配を感じる造作ではある。初版は一九五四年で、そちらは黄色っぽい表紙のペーパーバック、黒の小さい活字が並ぶだけのシンプルなもの。むろん非売の限定版だった。

ポヴェール自伝によると、ガリマール社の原稿審査員だったジャン・ポーランが、つねづね、「君の気に入る原稿があるだがね」と誘っていたようだ。一九五三年十二月か、または翌年一月の氷雨の降る夕暮れどき、ポヴェールはジャコブ通りでポーランに出会った。ポーランが「例の原稿、ここに持っているんだよ」と言ったが、生返事をしていると、持っていた封筒をポヴェールの手に押し付けてきた、「まあ、読んでみてよ、君しかいないと思うんだよね」。

帰宅して読み始め、午前一時に読み終わった。驚いた! 妻に向かって「ぼくの本だよ! ポーランは正しかった。ぼくが永年探していた本だ」と叫んでいた。その朝早くポーランを電話で叩き起こした。「あれはぼくの本だ。著者を紹介してくれ」とたたみかけると、ポーランはちょっと咳き込んで「けっこう、けっこう、ふーむ、ひとつ困ったことがあるんだよ。著者はもう出版の契約をしているんだ」。

ポヴェールは、誰にもぼくの本を出版させるものか、暴力も辞さない、と意気込んで、ドゥー・リヴ出版(Editions des Deux Rives)のルネ・デフェズとの交渉に臨んだ。「ああ、マダムOかい、つまらんポルノだね、ポーランがわしにつかませた。流行らないと思うけどね、おたく、ほんとに興味あるの? じゃあ、1000フラン払い込んでくれたら、契約はあんたのものだ」

あっけなかった。ポヴェールは喜んで支払った。詮無いことだが、今思えば、もう少し値切ってもよかった。そして次に作者のポリーヌ・レアージュことドミニク・オーリ(Dominique Aury)に会って契約を結んだ。ドミニクが慎み深く椅子に座った様子はほとんど気配を感じさせなかった。そして魅力的だった(当時彼女は四十七歳)。目立たない髪型、服装、育ちの良い少女のように坐っていた。心地よい声だった。

とまあ、ポヴェールの有頂天の様子がよく分かる。出版後も作者はずっと秘密にされていて、ポーランの偽名ではないかと言われることが多かったようだが、ポーランの死後に続編の『ロワッシイへの帰還』が刊行されるに及んでドミニク・オーリ説が有力となっていた。ポヴェールは全てを明らかにしたわけである。ちなみに、ポーランは文章についていちいちチェックして意見を述べたらしいが、ドミニクはその意見にほとんど従わなかったということである。
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by sumus_co | 2009-01-16 22:36 | 古書日録
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